これからの伊丹の教育(令和7年度教育基本方針)
太田教育長は、令和7年第3回市議会定例会(令和7年6月2日)にて、令和7年度の教育基本方針を表明しました。内容は以下のとおりです。
はじめに
近年、SNS等のネット情報が社会に与える影響力が飛躍的に増大しています。商業ベースでの生成AI開発競争が激化する一方で、その真偽や安全対策が後回しになっている点は懸念されます。世界に目を向けると、子どもたちのSNS利用制限について各国の動きが活発化しています。人工知能が人間の知能を凌駕するシンギュラリティの到来は予想以上の速さで近づくのではと言われる中、私たちは英知を集め、未来からの留学生である子どもたちに、どんな状況にも臨機応変に対応し困難に立ち向かう力「レジリエンス」、情報を鵜呑みにせず自分で判断し見極め自己決定する力、さらに人間ならではの創造力やコミュニケーション力などを育むことが必要です。また、学校においては単なる個別の知識理解にとどまらず、子どもたちに深い意味理解を促す指導や学ぶ意味や社会とのつながりを明確にしていくことが求められています。
本市の現在の教育現場に目を向けると、学力や体力についてこれまでの取組の成果は確実に表れています。しかし、長期欠席者や特別な支援を必要とする子どもたちは増加しています。子どもたちの興味や個性を活かし、子どもが自ら知りたい、学びたいと思える環境を整え、多様な学び方ができる学習者主体の教育を創造していく必要があります。
一方、教員・保育士の不足は社会問題となっています。その原因として、保護者対応や部活動指導等の授業以外の業務の多さが挙げられ、それによる長時間労働や負担感の増大が指摘されています。教員や保育士不足は子どもたちに直結する問題であり、校務のデジタル化や部活動改革等早期の対応により、負担軽減を図る必要があります。
第12期中央教育審議会生涯学習分科会においては、人生100年時代に経済的豊かさのみならず精神的な豊かさから幸福や生きがいを捉えるウェルビーイングを目指し、誰もが生涯を通じて意欲的に楽しく学び続ける社会の創造が求められています。本市においても様々な生涯学習施策を展開してきました。しかし、市のスポーツ施設の老朽化や、市民ニーズの変化等、時代を見据えた対応が必要となっています。
これらの課題解決に向け、令和6年度は様々な方々の意見を聞き、今後の施策に生かすための取組を進めてきました。校園長・所長会では、「次年度から重点的に取り組むべきこと」をテーマにワークショップを行いました。「若手教員の指導力向上」「中堅・リーダー層の育成」「保幼小の接続の推進・小中連携の強化」「サポートルーム等不登校対策強化」「教育DXの推進」等の意見が出されました。
また、自らの参画意識を高めるために開催した「こども未来プロジェクト」で中高生が協議し、中高生の意見を聞き、市立伊丹高等学校生徒会から教育委員会への提言をいただきました。「充実している学校とは学校から生徒へのサポートができている学校」「自慢できる学校とは学校に対して誇れるものがある学校」「生徒の意見を取り入れるシステムづくりが必要」をはじめ、多くの意見を聞くことができました。
コミュニティ・スクールフォーラムでは「小中一貫のコミュニティ・スクール」「先生方への支援」「教員や自治会とのつながりを」といった意見をいただきました。さらに、「第3期伊丹市子ども・子育て支援事業計画(答申)」、「伊丹市スポーツ施設ストック適正化計画基本方針(答申)」など、市民の参画のもと、教育への提言や方向性が示されました。
令和7年度はこれらを形にすべく以下の点に重点的に取り組んでいきます。
多様化する子どもたちに対応する未来志向の教育の創造
1つめは、多様化する子どもたちに対応する未来志向の教育の創造です。
これまでの一斉指導は、効率性や公平性の担保について一定の役割を果たしてきました。ただ、多様な教育ニーズに対応するため、集団での指導を基盤にしつつも、1人1台端末の活用も含め、子どもたちの持つ個性や能力、興味関心に応じて多様で柔軟な学び方を支援していく「カラフルな教育」を提供していきます。そのために、教員等が互いのつながりを作り、共に教育課題に対応して学び続けるラーニング・コミュニティの創造を目指します。
子どもたちの接続期における段差を軽減する「縦の連携」の推進と、幼少期からの生活習慣の改善
2つめは、子どもたちの接続期における段差を軽減する「縦の連携」の推進と、幼少期からの生活習慣の改善です。
教育のスタートである幼児期の教育と小学校教育の接続については、「伊丹市架け橋期のカリキュラム」を公立・私立を問わず全ての幼児教育施設及び小学校で共有し、子どもたちの一貫した育ちに取り組みます。また、これまで行ってきた行事などでの小中連携からさらに進め、9年間を見通したカリキュラムでつながる小中一貫教育を進め、学校運営協議会との連携のもと地域の特色を生かし、地域に誇れる学校づくりに取り組みます。さらに、睡眠の重要性を中心に家庭との連携のもと、幼少期から子どもたちの生活習慣の確立を図ります。
学校・地域をつなぐ「横の連携」の充実と、生涯学習社会の構築を目指した学びの進行
3つめは、学校・地域をつなぐ「横の連携」の充実と、生涯学習社会の構築を目指した学びの進行です。
地域力が高く、子どもたちを熱い思いで支えていただくことは本市の強みです。その強みを活かしコミュニティ・スクールと地域学校協働活動の一体的推進をさらに進めます。また、積極的に情報を発信し、学校・家庭・地域総がかりの教育を推進していきます。子育て世帯など多世代の学びを含め、社会教育やスポーツ活動といった生涯学習を通じて全ての市民が交流し、生きがいをもって学び活動できるよう支援します。
ここまでは、今後の教育施策の方向性について申し上げましたが、引き続き各分野における主要な取組をご説明申し上げます。
施策1 子育て・子育ち
初めに、大綱2の「施策1 子育て・子育ち」です。
引き続き、教育費の負担が大きい中学生世帯については学校給食費の無償化を実施し、小学生世帯については、食材費高騰による保護者負担の補助を実施してまいります。また、保育所等における第2子の保育料の無償化などを継続し、子育てに係る経済的負担の軽減を図ります。
こども発達支援センターあすぱるでは、各関係機関との横断的な連携と0歳から18歳までの縦断的な相談体制を整え、ニーズに合った適切な発達支援に繋げます。さらに、保育システム等の活用により、利用者の利便性向上と円滑な専門的支援の提供に取り組みます。
施策2 青少年の健全育成
続いて、大綱2の「施策2 青少年の健全育成」です。
児童館「こらくる」や青少年センター等において、子どもたちが安心して過ごせる居場所や様々な体験の機会を提供してまいります。
また、乳幼児期の規則正しい生活習慣の獲得が子どもたちの健やかな発達につながるため、家庭や就学前施設と連携して睡眠習慣等の改善に向けた啓発に努めてまいります。
児童くらぶにおいては、多様な保護者ニーズに対応するため、引き続き、民間事業者が設置・運営する児童くらぶの参入や夏休み期間中の昼食提供事業の実施を推進してまいります。
少年愛護センターでは、青少年の問題行動等の未然防止と安全確保のために見守り活動に努めるほか、学校や関係機関等と連携しながら相談事業に取り組んでまいります。
施策3 幼児教育・保育
子どもの資質・能力の育成や学びの連続性を確保し、幼児教育から義務教育への円滑な接続を目指します。「架け橋期の教育連絡協議会」において1年生版カリキュラムを作成し、5歳児カリキュラムとあわせて各園所と小学校の教育理解と実践交流を促進します。幼児教育センターでは、保育者の実践的指導力向上のためのアドバイザー訪問、研修会、自主勉強会等を引き続き実施します。
待機児童の解消を図るため、保育士の新規採用や定着支援等の充実により、保育人材の確保に努めてまいります。
また、子育て支援の充実を図るため、病児・病後児保育の利用定員増や利便性の向上を図ります。あわせて、令和8年度からの全国的な本格実施に先駆けて、「こども誰でも通園制度」を試行的に実施してまいります。
施策4 学校教育
小学校から中学校へスムーズな接続のために、小中一貫のカリキュラム編成や教職員の連携など9年間を見通した小中一貫教育を推進してまいります。また、ICTによる教育データの利活用等によるきめ細かな学習支援やプロジェクト型学習や自由進度学習等の学び合う環境の設定により、「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実し、児童生徒を自立した学び手として育てていきます。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、こども版として、睡眠時間の不足が「抑うつ傾向が強くなること」「学業成績の低下」等につながることが示されています。家庭と連携して睡眠を中心とした児童生徒の生活習慣の改善を図ります。
いじめや長期欠席児童生徒への対応については、未然防止、早期発見、早期対応の充実に努めます。また、文部科学省「COCOLOプラン」に基づき、校内教育支援センターの充実や、1人1台端末での「心の健康観察」の活用、学校風土の「見える化」等を通して、学校が、児童生徒が安心して学べる場となるように取組んでまいります。
中学校部活動の地域移行については、生徒が安心して活動できる地域クラブの確保に向け、実証事業や有識者・関係者からなる協議会での意見聴取を行い、活動の担い手となる団体にとって最適な参入条件を検討し、ルール作りを進めてまいります。あわせて、令和8年度の完全移行に向けて自立した地域クラブのモデルを示すとともに制度の構築に努めてまいります。
市立伊丹高等学校については、普通科新学科となるグローバル共創科における探究活動の充実を図ります。
教職員の資質向上は、子どもたち一人ひとりの可能性を引き出し、豊かな学びを実現するための鍵となります。子どもたちのウェルビーイングに資する「カラフルな教育」をキーワードに、教員同士が主体的で対話的に学び合う「ラーニング・コミュニティ」を構築することで、教員一人ひとりの学びを深め、学校全体の教育力を高めてまいります。
施策5 教育環境
コミュニティ・スクールの充実については、各中学校ブロックにおける実践交流や、小中連携の取組に向けた情報共有などを通して学校運営協議会の質の向上を図ります。また、各学校運営協議会において協議内容や地域と連携した取組等について、地域や保護者に情報発信するなど、学校運営協議会と地域学校協働活動の一体的な推進に取り組んでまいります。
老朽化した学校施設の長寿命化及び快適な教育施設環境の確保に向け、大規模改造工事等に取り組むとともに、熱中症防止対策として、避難所でもある全ての学校体育館に空調設備を整備いたします。
教職員の働き方改革については基本方針に基づき、教育DXの推進によるロケーションフリーで安全かつ快適な職場環境の整備や部活動の地域移行により、業務の効率化と勤務時間の適正化を図り、教職員が心身の健康を保ち、情熱とやりがいを持って働ける環境を整えてまいります。
施策6 生涯学習・スポーツ
生涯にわたる学びを支えるために、市民ニーズに対応した多様な学習機会を提供するとともに、施設間で連携し、市民の学びの成果が地域に還元される仕組みづくりをさらに進めてまいります。
図書館では、子どもの読書習慣の定着と読書意欲の向上を目指し、電子図書館の活用や学校との連携により、様々な場所で読書に親しめる環境を充実させます。また、市民の学習と交流を促進するため、市民企画事業や、市内施設・企業等と協働した事業を実施してまいります。
生涯スポーツが楽しめる環境整備については、「伊丹市スポーツ推進計画」に基づき、市民がいつでも、どこでも気軽にスポーツに親しむことができるよう様々なスポーツ事業を展開するとともに、「伊丹市スポーツ施設ストック適正化計画基本方針」に基づき、スポーツ施設の老朽化対策や施設の有効活用等を進めてまいります。
施策7 人権
人権が尊重されるまちを実現するために、「伊丹市人権教育・啓発推進に関する基本方針」に基づき、人権教育の推進と主体的な学びの場の提供に努めてまいります。
就学前教育においては、非認知能力を育てる教育・保育を実践してまいります。
学校教育においては、学校教育全体を通じて、多様性を認め合う子どもを育成する人権教育を推進してまいります。
地域においては、市民団体との連携や人権教育指導員の派遣等の支援を行い、学校、家庭、職場等における人権意識の向上を図ってまいります。
結びに
「こども基本法」の基本理念を踏まえ、学校園所において安全と人権が守られていることは子どもたちの幸せと成長の礎になります。また、人が自己実現できるためには、「心理的安全性が担保されている環境」が必要です。
国の「第4期教育振興基本計画(令和5年度~9年度)」は、「2040年以降の社会を見据えた持続可能な社会の創り手の育成」「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」をコンセプトに掲げ、これらの相互循環的な社会の実現に向けた取組が進められるよう教育施策を講じることを求めています。本市においても保護者や地域・子どもたちや教職員など多くの人々の言葉に耳を傾け協働し、客観的な根拠をもとにした教育施策により未来を見据えた伊丹の教育を進めてまいります。
この記事に関するお問い合わせ先
教育委員会事務局教育総務部教育政策課
〒664-8503伊丹市千僧1-1(市役所2階)
電話番号072-784-8081 ファクス072-784-8083
更新日:2025年06月05日