5章「総合的な同和・人権行政」をめざして

更新日:2021年03月31日

これまで、調査からみる「伊丹市における同和問題の現状と課題」、「同和問題解決のための基本認識及び基本目標、並びに基本的視点」、「同和問題解決のための施策の推進方向」についてまとめてきた。そのなかで、各項目毎に個別の課題を提起してきたところであるが、最後に、これらを踏まえ、伊丹市の同和行政が、「総合的な同和・人権行政」へと発展するよう、次のことを提起するものとする。

1)差別の現状や従来の同和対策事業において「残されてきた課題」に留意し、かつそこでの理念や取り組みの蓄積を充分生かせるようにしつつ、新たな方向へと進展することが求められる。

2)「総合的な同和・人権行政」というのは、一般的な「人権行政」に転換するということを意味するのではなく、同和問題を基軸において、同和問題を解決するための方途として、他の諸差別問題との関連を明らかにし、それを通して「部落」差別をなくし、「差別のない社会」へと向かうための方策を模索することをいう。個々の差別問題は、それぞれ歴史的社会的に固有性をもっており、それぞれの差別問題からも同様のアプローチが必要であり、それらとの有意味的な関係づけを積極的に求めるという方向性をもった行政への進展である。

3)その関係づけとは、これまでの同和行政の理念や取組みを現行の一般施策に反映させるための方策を検討することであり、生活全般(環境を含む)にまたがったノーマライゼーションの実現を図ることである。

4)同和問題解決のための施策の主要な課題は、「部落」差別という差別意識をなくし、差別意識を支えている社会規範や社会システムの準拠枠を変更していくことである。さらに、この課題を深めるためには、これまで何度か指摘してきたように、「差別の重層性(複合的差別)」という考え方を媒介にすることが必要である。

それは、「差別を受ける者」が他の差別との重層化された状態におかれるだけではない。「差別を受ける者」と「差別をする者」という差別的関係が、個人意識に複合的に内包し、社会意識やそれを支える社会規範と社会システムのなかに複合的に内在し、自明なものとなっているからである。その結果、同種の差別を受ける者相互で、自己の受けている差別を基軸にして、相互に対立を生じることがある。

「部落差別を受ける者」には、このような諸差別の複合化した差別を受ける者を含む。そのため、「部落」差別と他の諸差別が、社会意識や社会構造のなかにどのように関連をもっているのかを明らかにしていかなければならない。そのことを通して、「差別を受けている者」相互で課題が共有でき、相互の関係づけとネットワーク化が可能となり、「差別のない社会」の実現への道筋が見えてくるのである。

5)また、「社会的不平等(階層間の不平等)」という考え方をも媒介する必要がある。それは、「部落差別を受ける者」に現象化する諸問題は、「部落」差別と社会的不平等との結節点におかれることによって生じている。また、社会的不平等から結果する生活上の問題や教育・就労等の問題を抱えている人々がいる。差別事象や事件は、両者の対立関係から生じている側面も無視できない。また、人権問題の多くはこれらの層で生じている。そのため、社会構造に内在する社会的不平等を生み出す要因を明確にしていくとともに、自立支援に向けた方策をも検討することが必要である。

6)教育・啓発にあっては、上記の当然の帰結として、これまでの知識伝達型のものではなく、「自己と差別」、「自己と社会」との関係を模索することが可能なものとならなければならない。そこでは「個人」が主体として、「人権は各人の努力によって護る」ものという考え方にたつことが必要となる。それを可能とするためには、必要な情報を得ることの体制の整備が必要である。それが、これまでに何度も触れてきた人権問題に関連する情報公開とデータベース化の整備とその体制づくりである。

7)差別や人権侵害を受けた者のエンパワーメントの確立を図ること、人権にかかわる問題で困っている人々の相談を受けること、人権問題に関する情報の公開などのため、人権や差別のさまざまな問題にかかわる行政や民間の各種機関とのネットワーク化と情報の収集・集約は必要である。そして、その実現と推進を期するため、人権オンブズパーソンなどを含め内容の検討に着手すべきである。

本協議会は、これまで述べてきたように客観的な情勢や調査結果、また協議会や小委員会の論議等を踏まえ、「伊丹市における今後の同和行政のあり方」について、「同和問題解決のための施策の推進方向」並びに「『総合的な同和・人権行政』をめざして」として結論するに至った。

現在の最も重要な課題が「差別意識の解消に向けた体制づくり」にあることはいうまでもない。そのなかで、本協議会としては、「人権」は、「個人の外に客体として存在するものではなく、差別とはどういうことをいうのか、人権とはどういうことをいうのか、これらの内容を各人の努力によって意味づけ創りあげていく時期にきたことや、そのための体制や仕組みを整備することの必要性を重視している。また、差別を受けているすべての人たちが、それぞれの地域社会において、「人として安全で安心して暮らし、社会参加できるまちづくり」を可能とする総合的な同和・人権行政を提起しており、そのためのプランニングを求めているものである。

終わりにあたって、今後、本「提言」が「差別のない社会」の実現に向けて役立つことを切に願うものである。

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