第3章 重要課題への対応
1女性
(1)現状と課題
性別に関わりなく、すべての個人が互いにその人権を尊重し、喜びも責任も分かち合いつつ、その個性と能力を十分に発揮できる男女共同参画社会を実現することは、21世紀の社会にとっての最重要課題のひとつである。
国際社会においては、昭和50(1975)年の「国際婦人年」それに続く「国連婦人の10年」、昭和54(1979)年の「女子差別撤廃条約」の採択、平成7(1995)年の北京における第4回世界女性会議での「行動綱領」採択など、女性の人権確立に向けての取り組みは世界的潮流として展開されてきた。
わが国においても、日本国憲法に男女平等の理念がうたわれて以来、男女平等の実現に向けたさまざまな取り組みが進められてきた。平成11(1999)年に「男女共同参画社会基本法」が公布・施行され、平成12(2000)年には、「男女共同参画基本計画策定にあたっての基本的な考え方」が示され、それに基づき「男女共同参画基本計画」が策定された。このように、法律上、制度上は男女の平等が整ったにも関わらず、依然として社会的・文化的に形成された性別意識(ジェンダー)(*7)が根強く存在し、女性は社会的・経済的な自立が、男性は生活的自立が遅れるなど多くの課題がある。これらの背景には、「男だから」、「女だから」あるいは「男は仕事、女は家庭」といった性別にとらわれた意識が存在している。
また、近年、性犯罪、売買春、セクシュアル・ハラスメント、ドメスティック・バイオレンス(*8)など、女性に対するさまざまな人権侵害が問題となっており、男女共同参画社会を実現するためには、こうした課題の解消を図らなければならない。
本市においては、すべての人が個性・能力に応じ、一人の人間として性別にとらわれることなく、男女が平等なステージで対等な関係を結ぶことができ、あらゆる分野における権利と義務、利益と責任を男女が分かち合える「男女共同参加型社会」の実現を目指して、平成8(1996)年に「伊丹市女性のための行動計画」を策定し、関連施策を推進してきた。現在、その後の状況変化に対応したものとするため、伊丹市女性政策懇話会を設置し、その見直しを行っている。
(2)今後の取り組み
性別役割分担意識など、「男女共同参画社会」の形成を阻害する要因の払拭については、発達段階に応じた意識改革が必要であり、啓発活動の一層の充実、発展に努める。また、啓発すべき課題の把握に努めるとともに、「男女共同参画社会」づくりに向けた国内外の情報や資料の収集・提供に努める。
家庭においては、幼児期からの体験や学習を通じて男女平等の考え方を身につけることが大切であるため、家庭の中心となる親や養育者への意識啓発等に努める。
地域においては、公民館など地域における学習の場を通じて、性別役割分担の克服と女性問題の解決のための意識啓発に努め、市民への学習機会や情報提供などの充実を図るとともに、多様な対象者に対して、親しみやすく分かりやすい手法での啓発を積極的に展開する。
学校等においては、性別による固定的な役割意識などを子どもたちに植えつけないように、日常の教育活動の点検・見直しを進め、男女平等、男女の相互理解・協力を推進する教育活動の充実を図るとともに、教職員研修の充実に努める。
職場においては、事業主や市民等への啓発と情報提供を行うとともに、働く女性、働こうとする女性に対する援助策を講じ、男女平等雇用を推進する。これは、女性だけでなく男性も働きやすい職場づくりにつながるものである。
人権としての「性」を尊重するためには、女性の「性」の商品化が女性を精神的、身体的にいちじるしく傷つけるものであるとの認識を徹底させるため、人権尊重の視点にたった啓発に努める。また、セクシュアル・ハラスメント、ドメスティック・バイオレンスなどの女性に対する暴力が人権侵害であるという認識の徹底を図る。
2子ども
(1)現状と課題
平成元(1989)年、国連総会で「児童の権利に関する条約」が採択され、平成6(1994)年、我が国でこの条約が批准された。それにともなって、「庇護すべき親の所有物としての子ども」から「権利の主体としての子ども」へと認識が変化しはじめた。今求められているのは、子どもたちが「権利の主体」として伸びやかに成長できるような環境を整備することである。
しかし、各種の少年犯罪、虐待、いじめ、不登校など、子どもを取り巻く状況は多くの問題を抱えている。この背景には、核家族化、少子化、情報化など、子どもの生活に影響を及ぼす社会環境の変化がある。子どもたちは、物質的な豊かさには恵まれながらも、生活体験や自然体験は全般に貧困になり、異年齢の人々との出会いも限られるようになった。その上、性の商品化や覚醒剤等の薬物乱用など、子どもたちの心身をむしばむような現象も見られる。また、社会の先行きが不透明なのに加えて、家庭や学校、地域の中で、自らの存在感や心の居場所、活動の場が見いだせない子どもも増えている。
一方、子どもが育つ環境や子育て家庭を取り巻く環境は厳しい状況にあり、子育てに悩む親が増えてきている。子育てを母親だけに委ねてしまったために、誰にも相談できず、不安と限られた空間の中でしだいに追いつめられ、孤立してしまうことがある。
本市においては、このように、孤立した親子を地域の中で支え、温かく見守りながら、心身ともに健やかに育つよう支援するため、平成10(1998)年、「伊丹市児童福祉計画」を策定し、地域における子育て支援等を推進している。子どもの人権侵害に係る問題は、大人社会の在り方が大きく影響しており、これらの問題を解決するためには、家庭・学校・地域及び行政の相互の連携が重要である。
しかし、年々児童虐待は増加してきている。このことに、早期発見・早期対応するため、平成12(2000)年、地域、福祉、保健、医療、教育、警察、司法を含めた「伊丹市児童虐待防止市民ネットワーク会議」を設置し、乳幼児を含む児童の身体および精神の健康保持と生命の安全の確保、また、総合的な防止対策を講ずるための体制を整備した。このような状況の中で、子どもたちの人権を守り、また、健やかな成長を見守るような支援活動を展開していく必要がある。
(2)今後の取り組み
地域での子育て支援については、安心して子育てができる環境を整備するため、地域における多様な施設を利用し、親子が楽しく遊びながら仲間づくりができるような支援事業を一層推進する。また、子どもへの虐待を予防し、早期に発見、対応できるよう、「伊丹市児童虐待防止市民ネットワーク会議」を通じた関係機関の連携を深め、活動の充実を図る。
保育所における取り組みについては、「保育所保育指針」に示されている「人権を大切にする心を育てる」ことが実践できるよう、研修や自主的研究活動を通じて保育所職員の資質と能力の向上を図り、また多様な保育ニーズに対応できるよう保育内容の充実に努める。
学校園における取り組みについては、人権教育をはじめとする心の教育を推進し、子ども一人ひとりを大切にする人権尊重の学校文化を築くとともに、生活体験や自然体験、異年齢の人々との出会いを豊かにするために、「町の先生」制度など、家庭・学校・地域の十分な連携を図る。学校が地域の重要な社会資源として、共感をもって地域から支えられるよう、開かれた学校づくりをさらに推進する。また、子どもたちが自らの存在感や心の居場所、活動の場を見いだし、自ら学ぶ意欲と社会の変化に主体的に対応できる能力を育てるために、トライやる・ウィーク事業やフィールド・スクール事業(*9)などの体験的な学習を重視するなど学習形態の多様化に努める。
青少年の健全育成を図るためには、子どもたちが権利を行使できるように、大人はもちろんのこと、権利の主体である子どもたちに対しても「児童の権利に関する条約」の周知に努める。また、子どもの健全な育成に影響を与える有害な環境について、次代を担う若者たちを守り育てる視点にたち、市民ぐるみで総点検活動を計画的に進めていくと同時に市民一人ひとりの認識を高めるよう啓発に努めていく。さらに、重大な非行の前兆ともいえる不良行為を行っている少年や犯罪被害にあった少年及びその家庭に対し専門的見地からの支援活動を行う。
3高齢者
(1)現状と課題
世界的な高齢化現象により引き起こされる社会的、経済的な影響への国際的な対応を促進し、各国の政策に組み入れるため、平成3(1991)年、国連総会において、「高齢者のための国連原則」が採択され、高齢者の自立、参加、ケア、自己実現、尊厳の5原則に則して具体的な目標が提起された。また、平成4(1992)年には、この原則を具体化することを目的に、「すべての世代のための社会を目指して」をテーマに、平成11(1999)年を「国際高齢者年」とすることが決議された。
わが国においては、平成7(1995)年に高齢社会対策基本法が制定され、翌年、政府が推進すべき基本的かつ総合的な高齢社会対策の指針として高齢社会対策大綱が定められ、平成11(1999)年には、全国で「国際高齢者年」関連事業が行われた。
また、高齢者の介護については、平成元(1989)年にその基盤整備を進めるため、「高齢者保健福祉推進十カ年戦略」が策定されるとともに、家族介護から社会全体で介護を支える仕組みとして、平成12(2000)年から介護保険制度がスタートした。そして、残存能力の活用、ノーマライゼーションや自己決定権の尊重等の新しい理念と従来の本人の保護の理念との調和を図り、柔軟かつ弾力的で利用しやすい制度をつくるために民法が改正され、成年後見制度(*10)が創設された。
本市では、少子高齢化の進行や核家族化、女性の社会進出の進展、扶養意識の変化、価値観の多様化、地域社会の変化など、高齢者を取り巻く環境の大きな変化に対応するため、平成6(1995)年に、「心豊かな共生福祉社会をめざして」を基本方針に「伊丹市老人保健福祉計画」を策定し、高齢者の生きがいと保健・医療・福祉に関するサービス、まちづくりなどの施策を計画的に推進してきた。そして、平成12(2000)年には、「伊丹市介護保険事業計画及び老人保健福祉計画」を策定し、介護保険施設等の基盤整備、在宅サービスと施設サービスの供給体制の一元化をはじめとする推進体制の見直し及び地域福祉の推進役として伊丹市社会福祉協議会での地域福祉権利擁護事業の取り組み並びに平成12(2000)年、老人福祉法の一部改正の趣旨に沿って、老人クラブにより、自主的在宅支援友愛訪問活動を推進している。
今後、寝たきりや痴呆などの高齢者がますます増えることが予想される中で、高齢者の孤独死、介護の場におけるプライバシーの無視、虐待あるいは遺棄、さらに財産の奪取・詐欺商法による被害など、高齢者の人権が軽んじられ、尊厳が認められない問題が増加することも予想される。高齢者が地域で自立した生活を送れるように支援するとともに、高齢者の尊厳が保障されるように教育・啓発を推進する必要がある。
(2)今後の取り組み
高齢者については、「高齢者=弱者」といった画一的な高齢者観が存在する中で、高齢者自身の権利意識を育むために、高齢者及び高齢者を取り巻く人々の意識改革に取り組んでいく。また、高齢者が安心して自立した生活を送れるよう支援し、高齢者がそれぞれの経験と能力を生かし、高齢社会を支える重要な一員として各種の社会的な活動に積極的に参加できるための条件整備を図る。
教育・啓発については、高齢者がもつ多面的な特徴を理解し、従来からの画一的な高齢者観を変え、高齢者が長年培った知識、経験、技能が家庭、学校、地域、職場等において正しく評価されるよう研修や広報活動に努める。さらに、高齢者自身が、日常生活を意欲的かつ創造的に過ごすための学習機会を整備し、学ぶ権利を保障する。また、若い世代には、積極的に福祉教育を推進し、保健福祉月間などを通じて高齢者福祉などについての情報提供に努める。
生きがいと社会参加の促進については、高齢者の経験や能力を生かした多様な就業の機会づくりやシルバー人材センターの活動を支援するとともに、地域でのさまざまな社会活動に参画できるよう老人クラブ活動の強化を図り、社会の一員としての参加を保障する。
介護システムの構築については、介護予防に努めるとともに、介護を必要とする人が、人として尊厳を保ち、介護サービスを選択、決定し、かつ公平に受けることができ、そして、ニーズや状態に応じた適切で効率的なサービスが提供される介護システムの構築を推進する。
介護を支える家族等に対しては、介護方法や介護知識を習得するための研修会や講座を開催するとともに、心身の状況に応じた適切な介護サービスを受けることができるよう支援を行う。
また、介護を支える人の資質の向上と人権意識の高揚に努める。
相談・支援体制の推進については、寝たきりや痴呆などの高齢者の人権侵害、財産侵害、消費者被害などについての相談窓口や地域福祉権利擁護事業、さらには、成年後見制度などの利用の支援・啓発を推進する。
4障害者
(1)現状と課題
障害者福祉については、昭和50(1975)年、国連による「障害者の権利宣言」において障害者の基本的人権を尊重することが確認され、その後、昭和56(1981)年の「国際障害者年」やこれを受けて昭和57(1982)年に国において策定された「障害者対策に関する長期計画」を通じて、「障害者の完全参加と平等」をテーマに、近年その着実な推進が図られてきた。
また、平成5(1993)年には「心身障害者対策基本法」が「障害者基本法」に改正され、「障害者対策に関する新長期計画」が策定されるなど、ノーマライゼーションとリハビリテーションの理念を基調とした施策を一層充実させるための枠組みの整備が進んでいる。さらに平成7(1995)年には、障害者が地域社会の中でともに暮らせる社会をつくることを目標に「障害者プラン-ノーマライゼーション7か年戦略-」が策定された。
ノーマライゼーションの理念とは、障害者を特別な制約をもつ存在とする考え方を大きく変え、障害の有無に関わらず、人はだれでも生まれながらにしてその尊厳と権利において平等であり、互いの理解と良識においてそれを保護し、ともに生きていこうとする社会を目指すものであり、社会に存在する物理面、制度面、文化・情報面、意識面のバリア(障壁)を取り払い、すべての人が対等な立場で暮らしていくことができる社会のことである。
しかし、障害者が地域の中で暮らしていく上でさまざまな障壁があるといわれている。すなわち、道路の段差や階段、駅舎エレベーターの不備など「物理的な障壁」や偏見等の「心理的な障壁」等である。今日では、これらの障壁に加え、障害者に対する企業や施設内等での虐待や暴行、さらには、財産侵害などの人権問題が生じている。
本市においては、平成10(1998)年に「伊丹市障害者計画」を、また平成12(2000)年には「伊丹市障害者実施計画」を障害者の参画を得て策定し、市民が障害者問題を自然に理解し、ノーマライゼーションの理念を実現できるよう広報・啓発活動を推進するとともに、障害者自身が容易に地域の交流活動などに参加できる環境づくりに取り組んでいる。
また、障害者が地域に根ざして生活するために必要なホームヘルパー・ガイドヘルパーの派遣をはじめとする在宅福祉サービスの充実を図る一方、障害者の社会参加と自立の促進を目指して「福祉のまちづくりのため都市施設整備要綱」に基づくバリアフリー化の推進や「伊丹市障害者雇用促進連絡会」を中心とした雇用促進活動に取り組んでいる。
今後は、障害者の高齢化が進む中、住み慣れた地域で生活したいというニーズがこれまで以上に高まっていくことが予想されるため、親亡き後も含めてそれを支援する体制づくりおよびノーマライゼーションの理念のより一層の教育・啓発活動が重要な課題である。
(2)今後の取り組み
障害者の主体性や自己決定権が尊重され、地域の一員として充実した生活ができるよう、人権と暮らしを重視した施策を推進する。
心の共生を目指す啓発活動等の推進については、障害者の人権を守るため、市民に対する人権啓発活動に努めるとともに、全ての市民が参加しやすい交流活動等を企画し、人権についての意識の向上を図る。事業等企画する場合には、障害者の参画を得て行うものとする。また、障害者の地域での生活を支援するため、市民の福祉意識の向上やボランティア活動への参加促進を図る。さらに、障害者が抱える幅広い問題に対応できるよう総合的な相談窓口を設置し、地域で生活する障害者の自立や福祉の増進を支援する。
安定した自立生活の支援については、障害のために就労が困難な人に対し生活安定のための支援を行うとともに、就労に向けた支援の充実に努める。また、伊丹市障害者雇用促進連絡会の機能強化を図り、障害者の雇用促進のための啓発活動の充実を図る。また、障害者の権利・財産を守るため、必要に応じた権利擁護に努める。
質の高い生活の促進については、障害者にとって、生活の向上を妨げる要因となっている日常的なコミュニケーション不足を解消するため、点字・手話通訳など障害に応じた情報提供手段の確立に努めるとともに、コミュニケーション援助のための人材育成・確保を図る。また、参加しやすい学習環境、余暇を楽しむ生涯スポーツ環境の整備を行い、障害者の社会参加と生きがいのある暮らしの実現を推進する。
福祉のまちづくりの推進については、障害者をはじめ、すべての人が住み慣れた地域で安心して生活ができるよう公共施設等のバリアフリー化を推進し、生活環境の改善を図る。
学校園における取り組みについては、今後は、障害のある子どもについての一層の理解を促進するために、小・中学校の「道徳」や「総合的な学習の時間」などを充実させる。
5同和問題
(1)現状と課題
同和問題とは、日本社会の歴史的発展の過程において形成された身分階層構造に基づく差別により、日本国民の一部の集団が経済的・社会的・文化的に低位の状態におかれ、現代社会においても、なおいちじるしく基本的人権を侵害され、とくに、近代社会の原理として何人にも保障されている市民的権利と自由を完全に保障されていないという、最も深刻にして重大な社会問題であり、その早急な解決こそ国の責務であり、同時に国民的課題である。
この同和問題の解決に向けた国や本市における取り組みについては、「第1章行動計画策定の基本的な考え方『1行動計画策定の背景』」において述べた通りである。
本市における現状は、平成12(2000)年に公表した「調査報告書」によると、環境整備等を中心としたハード面における基盤整備は概ね完了したが、なお高等学校や大学等への進学状況にみられる教育の問題や、この問題と密接に関連する不安定就労の問題、また依然として結婚問題を中心に根深く差別意識が存在している。
このように、実態的差別と心理的差別が存在し、また国の同和対策審議会答申が「その相関関係が差別の再生産を繰り返す」と指摘している中で、一方の心理的差別である差別意識のみを課題とすることは本意ではないが、本行動計画の性格上、その相関関係を念頭に置きながら、後者に限定して記述する。
差別意識に関しては、調査報告書に、「婚姻と差別」という項を新しく起こし、その事例を類型化することができるほど、結婚に関わっての差別事象が数多くの聞き取り調査の中で語られている。また、平成10(1998)年に発覚した大手調査会社による差別身元調査事件において、本市に事業所を置く企業数社が、その調査会社の会員として加盟していたことが判明したほか、差別落書きや差別発言が過去5年間で25件も見つかるなど、問題状況は深刻である。
さらに、学校や企業によっては、同和教育・啓発に対する取り組み姿勢にかなりの温度差が見られる。そのため、取り組み姿勢が弱い学校や企業においては、具体的で身近な事例を取り上げるなど学習教材の工夫を図り、取り組み意欲を高める必要がある。
(2) 今後の取り組み
差別意識の解消については、同和問題の解決に向けた今日までの取り組みにおいて、さまざまな手法を用い、教育・啓発活動を推進してきた。 今後においては、これまで積み上げてきた成果を踏まえ、さらに創意工夫を凝らす必要があるが、これまでの同和教育・啓発活動が解明してきた「個人意識としての差別意識」と「社会意識としての差別意識」の両面からの解消を目指していく。
「意識」という言葉を耳にした場合、直感的には「個人意識」というものがイメージされるが、「意識」には、その時代その社会において普遍的で支配的な価値観や人生観、また習慣や常識といった「社会意識」と呼ばれるものもある。
「社会意識」は、モノゴトの判断を下すことができない幼児期から、空気のように個人の意識に刷りこまれ、後年、その人が思考する際のモノサシとなって多大な影響を与える。そして、人権の視点を欠いた社会意識(「社会意識における差別意識」)が、人の行動を決定するモノサシに使われた場合、人権の視点を欠いた個人意識(「個人意識における差別意識」)が形成され、あるいは個人意識における差別意識と結びつき、人権の視点を欠いた行動(「差別事象」)となって表面化する。
したがって、個人意識と社会意識の双方を見据えた教育・啓発活動を推進する必要がある。その際、個人意識にあっては、人権問題に対する認識と理解を深めるとともに、個人意識における差別意識を払拭し、また、社会意識にあっては、人権を尊重する社会意識を創造するとともに、社会意識における差別意識を払拭する内容となるよう留意する。その具体的な取り組みとして、市民一人ひとりが、同和問題をはじめとする人権問題を自らの問題として捉え、日常生活の中で実践的に人権意識を培うことができるよう、次のようなキメの細かい教育・啓発活動や支援体制の整備に努める。
まず第一に、ごく身近なところに部落差別が存在する事実を認識できるよう、一般的・抽象的ではなく、「調査報告書」等で明らかにされた具体的な事例等を取り上げるなど、学習教材や研修手法の内容等を工夫する。
第二に、「調査報告書」等にもみられる通り、同和地区外住民の間には、「なぜ、同和地区ばかり環境改善がすすむのか?」といった意識や、「同和地区は、汚い、臭い」などといった旧来からの誤った蔑視観がなお存在する。このような意識は、実際に同和地区を訪れたことがない人に多く、同和地区を訪れ、地区住民と何らかの交流の機会をもった場合は、それが偏見によるものであったことに気づく人が多い。そのため、地区内外住民の交流機会の拡大に努める。このような交流活動は、これまでも地区内施設である共同会館や解放児童館等において取り組まれてきたところであるが、さらに豊かな人権文化の育成を目指した全市的な取り組みを推進するための拠点施設としてその充実と強化に取り組む。
第三に、平成12(2000)年に施行された「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」の制定経緯にみられるように、同和問題の解決に向けたさまざまな取り組みは、人権問題全体を底上げするために大きな役割を果たしてきた。これらの潮流を受け継ぎ、さらに発展させるため、人権をキーワードにした活動を進める各種団体、機関、行政相互のネットワーク化と、その中核的な媒体となる人権情報データベースの整備を図る。
6外国人市民
(1)現状と課題
すべて人は、人種、信条、性別、宗教などによって差別されず、生命・身体の自由や言論の自由など、人間らしく生きるための基本的な権利を有している。
昭和22(1947)年に施行された日本国憲法では「すべて国民は、法の下に平等(略)」(第14条)をはじめ、第3章において「国民の権利及び義務」を規定しているが、この章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、外国人にも等しく適用されるべきものと考えられている。
昭和23(1948)年、世界人権宣言が採択され、その後成立した難民条約、人種差別撤廃条約、国際人権規約などの諸条約によって、国際的な人権基準が形成されていった。そして日本が批准した国際人権規約、難民条約により、「内外国人平等処遇」の原則が適用され、政府はこれらの批准に伴う国内法の改正により、児童手当、国民年金などの国籍条項を廃止した。
しかしながら、その後においても、外国人市民に対する入居差別、就職差別などの民族的な偏見や差別が依然として根強く残っている。
本市においては、これまで外国人市民が暮らしやすいまちづくりを進めてきたが、依然として外国人市民の多くが本名(民族名)ではなく、通名(日本名)を名乗っている現状がある。平成11(1999)年の「伊丹市外国人市民アンケート調査」報告書によると、韓国・朝鮮籍の市民でいつも本名を名乗っている市民は、わずか7.5%にすぎない。これは民族的な偏見や差別の現状を如実に物語っているが、住宅入居や就職などに関して多くの外国人市民が被差別体験を有している。
さらに、新たに日本で暮らすことになった外国人市民の場合は、民族的な偏見や差別に加えて、言葉や生活習慣の違いなどから多くの問題を抱えている。
また、本市では国際姉妹・友好都市のベルギー・ハッセルト市や中国・佛山市との交流を中心として、国際交流・国際理解に努めているが、地域の国際化、世界の人々との交流がより重要な課題となっている。
このため地域に暮らす外国人市民一人ひとりの人権、民族性や文化などを尊重する多文化共生のまちづくりを進めるとともに、世界の人々との交流では市民の交流活動やNGO・NPO(*11)の活動などを支援し、市民が主体の国際交流を進めることが必要となっている。
(2)今後の取り組み
市内在住外国人と共生し、外国人市民の人権を守るために従前より実施しているさまざまな事業を継続・発展させながら、なお一層の国際化を推進することにより、外国人市民が暮らしやすい環境づくりを進める。
多文化共生のまちづくりの推進については、 審議会等への外国人市民の参画の推進や外国人市民代表者会議の設置など、外国人市民の市政への参画を進める。また、民族的な偏見や差別の解消を図るために、市民啓発事業の充実、各種団体・行政等との連携、家庭、学校、地域、職場等における啓発活動の充実、外国人市民との幅広い交流など、外国人市民一人ひとりの人権、民族性や文化を尊重するための啓発・交流活動を推進する。さらに、異なる文化や生活習慣を互いに尊重し合い、他者の痛みが共感できる心を育てる学校園づくり、外国人児童生徒が本名を名乗って生きていくための教育環境づくりを推進する。
また、 外国人が住民としての行政サービスを受ける権利が損なわれないよう、行政情報や災害・緊急時の情報、保健・医療をはじめ生活全般にわたる情報について、外国語による情報提供や生活相談を充実するとともに、公共施設や道路・公園などにおける外国語による案内表示を推進するなど、外国人市民のニーズに対応した施策を推進する。
さらに、市民・地域主体の国際化の推進については、本市の国際姉妹・友好都市との交流や伊丹市国際交流協会等との連携、ボランティアバンクの整備や国際協力団体のネットワ-ク化、またNGO・NPOとの連携などにより、市民や地域の力を主体とする国際交流・国際協力を進める。
本市の国際姉妹・友好都市であるベルギー・ハッセルト市や中国・佛山市との交流については、市民の交流事業への参画や両市との学生交流を通して、市民、特に若者の国際感覚の涵養を図り、異なる文化や外国人市民の人権に対する意識の高揚に努める。
7アイヌの人々
(1)現状と課題
アイヌの人々は、北海道を中心に先住している民族であり、アイヌ語をはじめとする独自の文化と伝統を継承してきた。北海道をはじめ東北地方に、アイヌ語を語源とする地名が今もたくさん残っているが、「北海道旧土人保護法」という明治時代につくられた差別的な名称の法律にもみられるように、アイヌの人々は不利な土地政策、狩猟の禁止などにより生活領域を狭められ、苦しい生活を強いられた。さらに、同和政策によって多くの民族文化が失われていき、民族の尊厳を守りながら生きる権利が否定されてきた。
このため、平成9(1997)年にアイヌの人々の民族としての誇りが尊重される社会の実現を図り、あわせて日本の多様な文化の発展に寄与することを目的とした「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」が施行された。
(2)今後の取り組み
アイヌ文化や伝統などに関する知識の普及と啓発については、「さまざまな民族が共生し、多様な文化が存在することで、社会全体が一層豊かになる」という認識のもとに、国や関係機関と連携を図りながら推進する。
教育の充実について、アイヌの人々の歴史や現状については、小学校から社会科の教科書などにおいて取り上げられている。今後とも、人権尊重、多文化共生の観点にたった教育を推進するために、教科指導に関する教職員などの研修の充実に努める。
8感染症患者
(1)現状と課題
わが国においては、今なおさまざまな病気についての正しい知識と理解が十分普及しているとはいえない。特にAIDS(後天性免疫不全症候群)やハンセン病などの感染症に対する医学的・科学的認識が不十分であり、感染症患者やその家族に対するいわれのない差別や偏見がみられる。このような病気に関する人権侵害をなくすため、正しい情報の啓発に取り組むとともに、罹患者や家族が安心して暮らせる社会づくりに努める必要がある。
(2)今後の取り組み
教育・啓発活動については、感染症患者やその家族がおかれている状況を正しく認識し、これらの人々の人権を大切にしながらともに生きる社会をつくるために、さまざまな機会を通じて啓発活動に取り組む。また、医療関係者に対する研修及び家庭や地域、学校等における啓発教材の作成や人権教育を推進する。
自立・社会参加の支援については、感染症患者などが自立した生活を送れるよう、関係機関と連携し、事業主の理解を求め、職場の確保などに努めるとともに、プライバシーに配慮した治療体制の整備と適切な相談体制の充実を図る。
9刑を終えて出所した人
(1)現状と課題
刑を終えて出所した人に対しては「世間の冷たい目」によって社会復帰が妨げられるケースも見受けられる。地域社会で生活を再スタートさせる際には、その人の強固な意志とともに、家庭、学校、地域、職場などの理解と協力が不可欠である。
経済の景気低迷が続く中で、社会全体の規範意識の低下や家族関係の悪化などの影響により、少年犯罪や少年非行、児童虐待などの増加が社会問題となり、本市においては、市民が安全で安心して暮らせるまちづくりを目指し、保護司会、更生保護婦人会の活動を支援するとともに、家庭、学校、地域が一体となり、警察など関係機関との連携を図り、地域での犯罪予防運動の推進、交通事故や犯罪の防止、罪を犯した人たちへの自立更生に取り組んでいる。
(2)今後の取り組み
保護司を中心に、罪を犯した者の更生保護を進めるとともに、犯罪の予防のために世論の啓発に努め、地域社会の環境をよくするための取り組みを進める。今後、更生保護の強力なネットワークを築き、家庭や学校、地域社会に幅広い活動を展開し、犯罪のない明るい社会の建設に取り組んでいく。
毎年、社会を明るくする運動として、7月を強調月間に定め、犯罪や非行を防止するとともに、罪を犯した人や非行に陥った少年の更生を支え、ふれあいのある明るい地域づくりを進めることを目標に、市内の関係機関や各種団体の協力を得ながら、さまざまな取り組みが展開されている。今後も関係機関及び各種の市民団体と連携を取り、犯罪予防や罪を犯した人の更生に向けての啓発等を積極的に行う。
10その他の人権問題
近年の情報・通信技術の発展により、社会のあらゆる場面で情報化が急速に進んでいる。情報化は生活に便利さと豊かさをもたらしたが、他方では個人情報が本人の同意なしに収集・利用され、その結果プライバシーが侵害されたり、インターネットやパソコン通信による差別事象などの人権侵害が生じたりしている。
また、婚外子、同性愛者、路上生活者に対する差別、あるいは職業差別やマスコミによる人権侵害報道など、身近なところでさまざまな人権問題が起こっている。
このような人権問題に対処していくためには、確かな人権感覚を培うとともに、人間らしく生きていくために法的にどのような権利が保障されているのかを知ることや新聞・雑誌・テレビ・インターネット等のあらゆる情報に適切に対応する能力(メディア・リテラシー)を培わなければならない。
その他にも、長期間にわたり自宅に閉じこもって社会参加をしない「引きこもり」の問題も生じてきている。この問題に関しては、家庭内暴力などの緊急時の対応やリハビリ施設、交流会など家族や本人の居場所の確保等、そして家族への支援という視点から検討していかなければならない。
また、昔からの習慣の中にも、差別につながる可能性のある習慣があり、これらについてはただ「伝統的にそうだから」ではなく、批判的に継承する必要がある。このような人権問題を考えるにあたっては、「私たちの常識」で判断するのではなく、まず人権侵害を受けている当事者の声に耳を傾けることで、その現実に学びながら、諸問題に対処していくことが大切である。
- 部署名:教育委員会事務局人権教育室
- 住所:〒664-8503 伊丹市千僧1-1 (市役所1階)
- 電話:072-784-8113 ファックス:072-780-3519






















